この建物を見たのは2、3年前で、僕がある建築ツアーの団長として10数人を引率するという旅の途中だったんです。スイスからドイツに入ってオランダに行くという。そしたら途中にどうしてもベルギーが挟まってきて(笑)、どうせ通るなら何か見ようということになった。で、ベルギーーといえば、ムール貝食べてオルタの建築を見るしかないので(笑)、アール・ヌーヴオーの建築なんてあんまり好みじやないと思いつつ行ったわけです。
でも、実際に見たら、確かにむせ返るように装飾がムーツと充満してる感じはあるけど、そんなにくどくはないし、なにより中が明るいのが印象的でした。それはやっばりガラスが大きいからなんですね。ご存じのように、この時代に科学技術がすごく進歩して、巨人なガラスがつくれるようになり、サンルームや天窓ができたり、大きな開口部が現れた。この家では有名な天窓はアーチ状だから小さなガラスをつないでいるけど、各部屋の大きな窓などを見ると、ちゃんとそういう新しい時代のテクノロジーが入っているのがわかります。
それから、階段の手すりの装飾も全部スチール(鋼鉄)なんですよ。こういうものはもっと前の時代だと、型に流し込んで固めるキャストアイアン(鋳鉄)でつくるんだけど、それをオルタは全部フラットな板をわざわざ曲げてつくらせてリベット(鋲)で留めさせてるんです。
ちなみに、この頃できたエッフェル塔は錬鉄という、鋳鉄の次にできた材料でできていますが、実はその錬鉄もすでに時代遅れで、エッフェル塔ができた頃にはもう鋼鉄ができていて、その後はどんどんスチールでものをつくる時代になる。建築の世界でもこのあとミース・ファン・デル・ローエが出てきて、最新の技術を駆使して鉄とガラスの建築をつくったりするわけですが、そう考えると、一見対照的なこの建築にもそういう気配がないともいえないんですよ。ただ、そんな最新の材料を使って、ヨーロッパの昔からのティストの装飾をわざわざつくるというのは、いかにも建築家らしいし、あきれちゃうところでもありますね(笑)。
おもしろいのは、その一方で、100年前からずっと大事にされてきた昔からの職人技もちゃんと生かされていることです。特に階段の手すりに見られるような木工芸的な技はすごいですね。階段の四隅こ揺れ止めの役目を果たす柱のようなものが立っていますが、それなんかは木でできているのに上のほうに行くにしたがって金色に光っていて、まるで途中から金属に化けちゃったみたいなんです(笑〉。完全なフェイクでしょうが・・・。
とにかく、この建物にはそういう昔からの伝統的な技術も入っているし、当時の最先端のテクノロジーも入っている。つまり、その時代が持っていた総力が表れたというか、急速に変化したある一時代を切ってみたら非常に複雑な断面が表れたという、そういう建物ですよね。
話は変わるけど、レンゾ・ピアノが設計した関西国際空港ははハイテクの頂点みたいな建築ですが、側面の巨大な開口部を支える弓形の方立(縦こ入れる補助材)は一種の鋳物で、日本ではつくれなくてフランスでつくらせたもので、それを製作したのが何とエッフェル塔をつくったギュスターヴ・エッフェルの流れを汲んだエッフェルという会社だそうです。
やっばり新築と同じように、文化財の保存や修復がきちんと行われている国だと、100年前の技術がちゃんとあるわけですね。そんなふうに、今と昔の技術がみな併存していて、目的に合わせて使えるというのはうらやましいなと思う。
ただ、日本にもまだ能力のある職人というのはいるし、そういう職人は今ではあまり見られなくなった技術を使ったものをつくりたいと言うと、すごくおもしろがるんです。たとえば、那須の週末住宅は僕が設計した別荘で、複雑な木構造をそのまま室内に現して意匠にしたような建物なんですが、これまでに何度か一緒に仕事をしてきた腕利きの大工に最初にに図面を渡したら、「野沢さん、今度のこの建物の大事なとこはここだろ」と、図面見ただけでわかってるんだぜといわんばかりに自慢してくるんですよ(笑)。
建築家と職人にはそういう応答みたいなのがあって、「あいつなら、こういうことをやらせるとまた乗ってくるかな」という、ちょっとジャムセッションみたいなおもしろさがあるんですね。オルタ邸にも明らかにそういう気配がありますよね、「相手がいる」みたいな。
それにしても、大きなガラス窓からたっぷり光が入って、裏庭や温室の縁も見えて、流れるような空間があって、暖房設備も完備されていて―オルタは隣のアトリエに行くのが嫌になっちゃったんじやないかと思いますね(笑)。
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